医療従事者向けお役立ち情報
コラム
2025.11.10
萩谷英大先生は、感染症の診断・治療と制御・対策、薬剤耐性、感染症の流行調査など、幅広い専門分野に精通されています。実際の現場で感染症診療や感染制御に従事すると同時に、研究活動にも注力されています。今回は、感染症専門医不足という課題に対応する「ID eConsult」の可能性について、最新の文献レビューをもとにその臨床効果や利点を解説していただきます。さらに、日本での導入に向けた展望や課題、島津製作所の「ExpertTWIN」など具体例を交え、テレヘルスが切り開く感染症診療の未来を探ります。
読者の皆さんは、eConsult(日本語では、電子コンサルテーション?)という言葉をご存じでしょうか?最近、“eスポーツ”という言葉があるように、オンライン上での活動を”e-XXXXX”と表現されていることを目にすることが多くなりました。eConsultは、「電子情報や通信技術を用いて、遠隔から臨床医療や教育を支援すること」と定義されるテレヘルス(Tele-health)の一形態で、電子カルテやセキュアなプラットフォームを介して行われる医師同士の非同期的(asynchronous)なやり取りを指します。同期型(synchronous)コンサルテーションとは、電話であれ対面であれ、直接対話型のディスカッションが基本であり、双方向的な議論によってより成熟した診断・治療方針を導くことが可能と考えられます。一方で、非同期型(asynchronous)コンサルテーションとは、メールやメッセージなどを通して非対話的に相談をして、後で回答を聞くという形になります。この仕組みにより、予約が必要な対面コンサルテーションが不要となり、プライマリ・ケア医が専門医に臨床的助言を求めやすくなります。一方で、非同期型ではタイムラグが存在し、一方向的な情報交換に終始する可能性が高いことが前提となる点には注意が必要です。
感染症診療(Infectious Diseases: ID)におけるオンライン・コンサルテーションは”ID eConsult”と表現され、その有用性・発展性が最近注目されています。本来は同期型コンサルテーションで十分な議論を交わして患者の診療方針を決定していくことが理想的ですが、感染症医の数が不足している現状において、eConsultの形を活用しようという流れが出てきているのです。eConsultシステムを有効活用することで感染症専門医へのアクセス改善、不要な紹介削減、抗菌薬適正使用の推進、カーブサイド・コンサルテーション(立ち話的な相談)の減少につながり、医師・患者双方のメリットになることが期待されています。今回はこの”ID eConsult”について議論したいと思います。
まず、ID eConsultの概要を理解するために、MEDLINE上に報告されているID eConsultに関連する文献を収集し、研究/実施背景やアウトカムについて調査しました。データベース上で2017~2025年に報告された11件の研究を解析しましたので、その要点を以下に列記します。
Strymishら(米国)[1]
米国ボストンの退役軍人医療システムにおける外来ID eConsultの導入を検証し、従来の対面診療と比較。eConsult対応までの時間は平均0.6日と、対面診療の16.5日に比べて大幅に短縮。主な相談内容は抗菌薬処方(33%)、潜在性結核感染(14%)、ライム病、尿路感染症、C. difficile感染症、周術期対応、ワクチン接種など。ただし、骨髄炎や心内膜炎といった侵襲性感染症には対面診療を要した。著者らは、ID eConsultは対面診療を減らすことなく、外来・長期療養施設などリソース制限のある環境で感染症診療の幅を拡げる有用なツールであると結論。
Murthyら(カナダ)[2]
オンタリオ州で2010年に開始された「Champlain BASE」プラットフォームのデータを報告。2013〜2015年に実施された224件のeConsultでは、結核(14.3%)、ライム病(14.3%)、寄生虫感染(12.9%)が多く、質問の種類は検査の解釈(18.3%)、一般的感染管理(16.5%)、治療適応(16.5%)が多かった。63%の症例は24時間以内に回答され、32%のコンサルテーションが回避された。55%の症例では助言に基づいて治療方針が変更され、89%以上の利用者が高く評価した。
Woodら(米国)[3]
ワシントン大学ネットワークの診療所での外来eConsultの状況を報告。2018〜2019年に328件のeConsultが実施され、その84.8%はeConsultのみで完了、12.5%は対面コンサルテーションに移行した。99%以上が3日以内(平均0.7日)に回答。主なテーマは検査結果の解釈(9.9%)、梅毒(9.6%)、潜在性結核感染(9.4%)であった。導入後、電話コンサルテーションは大きく減少したが、対面コンサルテーション数や待機時間には大きな変化はなかった。
Tandeら(米国)[4]
ミネソタ州の2つの地方病院で行われた入院患者対象のケース・コントロール研究で、100名のeConsult患者と300名の対照群を比較。eConsult群は30日死亡率が低下(11% vs 22%、調整オッズ比 0.3)、再入院率も低下傾向を示した。入院期間はやや長かったが、これはコンサル開始の遅れによる可能性と指摘。医師の満足度は高く(95%が「非常に満足」)、抗菌薬のデ・エスカレーション率は48%と顕著であった。
Ventoら(米国)[5]
ユタ州・アイダホ州の16の小規模病院を対象とした統合型テレヘルスプログラム。電話相談、非同期eConsult、同期型の遠隔診療、薬剤師による抗菌薬サーベイランスなどを組み合わせ、18か月で2,487件のやり取りが記録された。黄色ブドウ球菌血症などが多く、広域抗菌薬使用の大幅な減少につながった。
Medfordら(米国)[6]
ダラスの安全網医療システムにおける725件の外来eConsultを報告。潜在性結核(16%)、梅毒(16%)、消化管感染(10%)が多く、78%は対面コンサルテーションが回避された。ただし骨髄炎や非結核性抗酸菌症などは対面診療が必要となることが多かった。さらに、対面コンサルテーションが必要か否かを予測する機械学習モデルを開発し、約80%の精度を達成した。
Nishiguchiら(米国)[7]
サンフランシスコの公的医療システムにおけるC型肝炎治療におけるeConsultを検証。456例の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)治療患者を対象に、242例のeConsult群、214例の通常診療群を比較。治療成功率は両群とも90%以上で有意差はなく、非専門医による治療の質を担保できることが示された。
Singhら(カナダ)[8]
COVID-19に特化したeConsultをオンタリオ州で実施。289件のコンサルテーションは中央値0.6日で完了し、24%で対面紹介が回避された。93%の相談医が「臨床行動の確認または新しい助言を得られた」と回答し、パンデミック下での迅速なアクセス確保に寄与した。
Hofmannら(米国)[9]
オハイオ州立大学病院での外来eConsult(2020〜2022年、488件)を解析。潜在性結核(18%)、COVID-19(10%)、尿路感染(9%)、梅毒(7%)、C. difficile感染症(5%)などが多かった。中央値20時間で回答され、61%は24時間以内に完了。アンケートでは91%が満足と回答。
Buttら(米国)[10]
インディアナ州の郡立病院での280件の外来eConsult(2022〜2024年)を解析。87%がeConsultのみで解決し、72.5%が24時間以内に完了した。教育的効果も強調され、無症候性細菌尿や梅毒、潜在性結核の診療の質が改善した。
Madhavanら(米国)[11]
小児感染症を対象としたeConsult(2018〜2023年、727件)。診断指針、検査結果の解釈、ワクチン関連の相談が多く、64.8%で診療方針の変更が推奨された。71.4%は3日以内に回答され、98.3%の相談医が満足と回答。緊急性の高い症例(0.6%)は直接救急搬送されるなど、安全性も担保されていた。
これらの内容を表1-3にまとめましたのでご覧ください [1-11]。
| No. | 文献 | 研究期間 | デザイン | 国(地域) | 設定(システム/プラットフォーム) | eConsult数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Strymish 2017[1] | 2014 | 観察研究 | 米国(ボストン) | 外来(VAボストン医療システム) | 285件 |
| 2 | Murthy 2017[2] | 2013–2015 | 観察研究 | カナダ(オンタリオ) | 外来(Champlain BASE) | 224件 |
| 3 | Wood 2020[3] | 2018–2019 | 観察研究 | 米国(シアトル) | 外来(ワシントン大学ネットワーク) | 328件 |
| 4 | Tande 2020[4] | 2018 | ケース・コントロール | 米国(メイヨー) | 入院(地域病院2施設) | 100件 |
| 5 | Vento 2021[5] | 2016–2018 | 観察研究 | 米国(ユタ・アイダホ) | 入院(16小規模病院) | 761件 |
| 6 | Medford 2022[6] | 2018–2021 | 観察研究 | 米国(ダラス) | 外来(Parkland Health) | 725件 |
| 7 | Nishiguchi 2022[7] | 2017–2019 | 観察研究 | 米国(サンフランシスコ) | C型肝炎患者 | 242件 |
| 8 | Singh 2022[8] | 2020 | 観察研究 | カナダ(オンタリオ) | 新型コロナウイルス感染症患者 | 289件 |
| 9 | Hofmann 2024[9] | 2020–2022 | 観察研究 | 米国(オハイオ州) | 外来(オハイオ州立大) | 488件 |
| 10 | Butt 2025[10] | 2022–2024 | 観察研究 | 米国(インディアナ州) | 外来(郡立病院) | 280件 |
| 11 | Madhavan [11] | 2018–2023 | 観察研究 | 米国(ボストン) | 入院+外来(MGH) | 727件 |
| No. | 文献 | 主な相談者 | 主な相談テーマ | 報酬/資金 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Strymish 2017[1] | 外来診療所・介護施設 | 抗菌薬使用、LTBI、ライム病、CDI、ワクチン | 不明 |
| 2 | Murthy 2017[2] | PCP 84%、NP 16% | LTBI、ライム病、寄生虫、ワクチン | 時給200ドル |
| 3 | Wood 2020[3] | PCP | 検査解釈、梅毒、LTBI | ボランティア |
| 4 | Tande 2020[4] | ホスピタリスト | 不明 | 不明 |
| 5 | Vento 2021[5] | 医師・薬剤師 | 菌血症 | 年額契約 |
| 6 | Medford 2022[6] | PCP 63% | LTBI、梅毒、消化管感染 | 不明 |
| 7 | Nishiguchi 2022[7] | PCP | C型肝炎治療 | 不明 |
| 8 | Singh 2022[8] | PCP | COVID-19 | 州保健省 |
| 9 | Hofmann 2024[9] | PCP 55% | LTBI、COVID-19、UTI、梅毒、CDI | 不明 |
| 10 | Butt 2025[10] | PCP 72% | STI、NTM、細菌尿 | wRVU請求 |
| 11 | Madhavan [11] | PCP 83% | 診断支援、検査解釈、ワクチン | 病院からの支援 |
PCP:プライマリケア医、NP:ナース・プラクティショナー
| No. | 文献 | 回答時間 | 対面コンサルテーションの回避率 | 対面コンサルテーションとなった症例 | 平均所要時間 | 満足度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Strymish 2017[1] | 平均0.6日 | 不明 | 16% | 不明 | 不明 |
| 2 | Murthy 2017[2] | 平均8h38m | 32% | 25% | <10分:52% 10–15分:30% 15–20分:13% >20分:5% |
高評価:90%以上 |
| 3 | Wood 2020[3] | 平均0.7日 | 減少なし | 12.5% | <5:1.1% 5–10分:14.7% 11–20分:61.9% 21-30分:18.7% >30分:3.6% |
不明 |
| 4 | Tande 2020[4] | ≤24h | N/A | 10% | 初回コンサルト:29分 (範囲, 8–66分) フォローアップ:9分 (範囲, 2–15分). |
満足:95% |
| 5 | Vento 2021[5] | 不明 | N/A | 32% | 電話:5分 eConsult:20分 |
満足:97% |
| 6 | Medford 2022[6] | 不明 | 78% | 22% | <10分:27% 10–15分:47% 15–20分:23% >20分:3% |
不明 |
| 7 | Nishiguchi 2022[7] | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 |
| 8 | Singh 2022[8] | 中央値0.6日 | 24% | 5% | 平均 16分 (範囲, 5-59分) |
不明 |
| 9 | Hofmann 2024[9] | 中央値20h | 不明 | 不明 | おおよそ 10–15分 | 満足:73% |
| 10 | Butt 2025[10] | 72.5%が24h以内 | 87% | 12.8% | 不明 | 不明 |
| 11 | Madhavan [11] | 平均3日 | 不明 | 21.6% | 不明 | 満足:98.3% |
外来領域では、ID eConsultによる迅速な対応(平均0.6〜1日以内)、対面受診の回避(24〜87%)、抗菌薬使用の最適化、医師の高い満足度が報告されました。入院領域の研究では、死亡率や再入院率の低下、広域抗菌薬使用の減少といった臨床的効果も示されました。患者にとっても通院の負担軽減、医療費削減や予約キャンセルの減少といった便益があることもわかりました。またCOVID-19やC型肝炎など特定の分野を対象としたeConsultも機能することが示され、小児感染症でも有効であることが分かりました。eConsultは感染症専門医不足や地域格差を補う有効な手段であり、教育的効果を含め幅広い利点を有すると考えられます。また、eConsultが普及することで、記録に残らない「カーブサイド・コンサルテーション」が減少することが期待されます。これによって臨床情報が不完全な状態で診療方針を決定する傾向が押さえられ、質の高い医療と安全性を担保する手段になるとともに、法的リスクや補償の問題もクリアすることが可能です。いずれの研究報告においても、安全性の懸念は示されておらず、個人情報保護を徹底すれば安全に導入するが可能であり、eConsultは電話や対面診療に代わり得るコンサルテーションの仕組みとして、感染症診療の幅と量を大きく広げることが可能であると考えられます。
米国では約4分の1の病院で感染症専門医が不在であり、約8割の郡には専門医がいないと報告されています。さらに感染症専門医志望者数も減少傾向にあり、研修プログラムの半数近くが充足していません。日本でも感染症学会専門医は2025年8月1日時点で1869名であり、国内の病院数を考えると十分であるとはいいがたいと思います。ID eConsultはこのように感染症専門医が不足する状況を打開するための一つの解決策として今後も注目されるでしょう。
本稿執筆時点で、保険診療でカバーされる形のID eConsultは日本国内にありません。私が知る限り、島津製作所が開発した感染症マネジメント支援システム「ExpertTWIN」が北米で導入されているID eConsultに一番近いプラットフォームを提供しているのではないかと思います。感染症患者を受け持つ主治医の医療機関と感染症専門医をウェブでつなぎ、個人情報保護されたプラットフォーム上で双方向型・反復型のコンサルテーションを可能とするものです。ご興味のある方は是非ホームページをチェックしてみてください。
今回、ID eConsultに関連する11の過去文献の概要をまとめましたが、これらの結果を解釈するうえでの注意点を最後にご紹介いたします。
以上、ID eConsultは、感染症専門医不在の状況においても、質の高い感染症マネジメントを提供できる有望なプラットフォームとなりうることがわかりました。医療の質を改善するために、AIや臨床ガイドラインなど様々なツールが存在しますが、専門医への直接コンサルテーションに勝るものはありません。たとえそれが遠隔形式で非同期型のeConsultであっても、専門医の知識と経験が持つ価値は代替できないものがあると思います。さらに、eConsultの活用はあらゆるキャリア段階の医師に教育的機会を提供し、専門知識を広げる場として機能することも期待されます。
[1]Strymish J, Gupte G, Afable MK, Gupta K, Kim EJ, Vimalananda V, et al. Electronic consultations (E-consults): Advancing infectious disease care in a large veterans affairs healthcare system. Clin Infect Dis. 2017;64:1123–5.
[2]Murthy R, Rose G, Liddy C, Afkham A, Keely E. EConsultations to infectious disease specialists: Questions asked and impact on primary care providers’ behavior. Open Forum Infect Dis. 2017;4:ofx030.
[3]Wood BR, Bender JA, Jackson S, Rosengaus L, Pottinger PS, Gottlieb GS, et al. Electronic consults for infectious diseases in a United States multisite academic health system. Open Forum Infect Dis. 2020;7:ofaa101.
[4]Tande AJ, Berbari EF, Ramar P, Ponamgi SP, Sharma U, Philpot L, et al. Association of a remotely offered infectious diseases eConsult service with improved clinical outcomes. Open Forum Infect Dis. 2020;7:ofaa003.
[5]Vento TJ, Veillette JJ, Gelman SS, Adams A, Jones P, Repko K, et al. Implementation of an infectious diseases telehealth consultation and antibiotic stewardship program for 16 small community hospitals. Open Forum Infect Dis. 2021;8:ofab168.
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[11]Madhavan VL, Xu L, Murray AM, El Saleeby CM. A pediatric infectious diseases asynchronous eConsult program: An evaluation of content, impact assessment, and user feedback. J Pediatric Infect Dis Soc [Internet]. 2025 [cited 2025 Sept 26];14. Available from: http://dx.doi.org/10.1093/jpids/piaf070