コラム

【微生物検査室コラムシリーズ】
今後の検査技師が求められる役割と他職種との連携を考える
秋田県発 微生物検査室対談

パンデミックを経てますます重要性や注目度の高まる検査業務は、感染管理業務とも深く連携する業務です。そこで今回は本コラムの特別企画として、微生物検査室の視点から見た今後の業界展望や、感染管理との連携についてインタビューを行いました。ご登場いただく秋田大学医学部附属病院 中央検査部 副技師長 髙橋様と由利組合総合病院 臨床検査科 副技師長の加藤様はアイテック阪急阪神の微生物検査システムBCT Mateをご利用いただいており、秋田県感染対策協議会でも積極的に活動していらっしゃいます。

秋田県での地域における感染管理や抗菌薬などに関する中核病院と中小病院での情報はどのように連携されていますか?

加藤様:

秋田県には多職種が集まる「秋田県感染対策協議会」があります。この会は1983年から約40年続いている歴史ある会で、毎年2回開かれています。協議会では検査部、看護部、薬剤部、ドクターからテーマごとの発表や皆が聴ける講演もあり、一緒に学ぶことができますし情報共有の良い機会にもなっています。

髙橋様:

秋田県感染対策協議会では活動が認められ平成30年には表彰されたこともあるんです。参加者は熱心に活動しています。最近は老健施設も参加されています。こういう機会は他にあまりないですよね。医師会、ICNの会、臨床検査技師部、薬剤師などそれぞれの母体がありながら、一堂に介してそれぞれの立場から意見交換をするのがとても勉強になります。

加藤様:

秋田県感染対策協議会事業の一環で、医師と臨床検査技師が講師とインストラクターを務めて「グラム染色研修会」を毎年開催しています。他職種に参加していただきグラム染色の見方や魅力を伝え理解を深めてもらっています。

髙橋様:

秋田のコミュニティの狭さがあるから出来るのかもしれないですが、良い取り組みだと思います。

地域中小病院やクリニックへの情報発信、情報収集などはいかがでしょうか?

加藤様:

秋田県感染対策協議会で情報発信は行っていますが、やはり出来ることが限られる部分は多いです。

他の施設では感染対策の加算1の要件で、地域連携の業務が増えたという声があります。地域のクリニックからデータを収集して資料を作るなどの活動をされています。

加藤様:

今はできていない部分です。ただそういうお話なら、やはりシステムを活用した情報発信が有効な可能性はありますね。

髙橋様:

地域の高齢者施設などとの連携はどうですか?

加藤様:

そういった施設には微生物検査室ではなく、ICNが主となり研修会を行ったりしていますが、参加者の様子を見ているとなかなか理解が難しいのかなと感じます。だからこそシステムを活用して、データを見える形で発信するという発想は良いかもしれないですね。

今後企業に望むことはありますか?

加藤様:

秋田県では耐性菌に関して深堀する機会が少ないと感じています。近畿地方では近畿耐性菌研究会等があって独自に活発な活動をされていますが、秋田県はそもそもPOT法が大学病院にしか入っていないので…

髙橋様:

すぐに着手は難しい部分ですよね。

加藤様:

他県に比べ秋田県は耐性菌が少ないのかもしれませんが、秋田県の耐性菌の傾向を出していきたいです。なにか勉強会のようなものを開催していただけるといいですね。

微生物検査の業界では検査の自動化が進んでいますが、今後検査技師に求められるスキルなど人材についてはどのようにお考えでしょうか?

髙橋様:

たしかに自動化は進んできましたが、基礎技術はやはり必須だと思います。

加藤様:

そうですね。そういう意味では秋田県には認定臨床微生物検査技師が少ないので、もう少し増やしたいですね。結果をただ報告するだけではなく、臨床にわかりやすく伝えるためには、技師がきちんと理解しないといけません。そのための目安として認定技師は必要だと思います。そして、認定技師の受験条件に必要な論文を書ける環境がないという施設もありますので、まずは認定技師を育てる環境づくりから始めたいと思っています。

髙橋様:

環境はあっても指導者がいないということもありますよね。

加藤様:

今後新たな耐性菌が出る可能性もありますし、薬剤耐性菌について理解を深める必要があります。自分が培養結果を理解して、説明できることが必要ですね。

髙橋様:

その基礎知識を持った技師が現場に必要ですし、認定をとるということはそういう意味でも大事だと思います。
検査の現場では、質量分析で微生物の基礎技術がないと、検査結果を鵜吞みにしたまま報告してしまいがちです。例えばスコアがOK、信頼度が高いと結果が返ってくれば報告してよいと思うかもしれませんが、分析装置が出した結果をそのまま報告するのではなく自分でその結果を理解した上で報告する必要があります。またシステムがどんどんバージョンアップしていくことで、細かく報告できるようになったからといって、常に細かく報告すればいいというものでもないです。例えば、出たのが常在菌であっても報告していたら、臨床側は困りますよね。そのあたりは施設ごとにポリシーをもってどこまで報告するかを考えていかないといけないと思っています。

微生物検査技師は人数が少なく、人材の確保が難しいイメージがあります。

加藤様:

人材の確保は難しいですね。当院も今後は地域人口の減少にあたってスタッフ数は増えないだろうという考えでいます。そうなると新たな人材を確保は難しいため業務の兼務をしていく必要が出てきます。当院では主な担当部門に加え、微生物検査も兼務できる人材を育成しています。兼務することで知識が増えるのでスタッフにとっても良いことではないかと思っています。

髙橋様:

そうですよね。一人が同じ検査をずっとするだけでは、これからは難しいのかなというのは私も感じていて、加藤さんと同じ意見ですね。もちろんプロフェッショナルとして柱になる人は必要ですが、別の業務もある程度知っておく必要があると思います。そういうジェネラリストとしての資質があるほうが良いのかなと思いますね。
当院でも、血液培養は全員が培地に塗布できるようにしています。きちんと塗れていれば発育して結果は夕方には出ますので、判定は微生物検査の担当が行います。これができると、金曜の夜に血液培養に出しても、日曜の朝には報告が完了するので、従来より結果が1日早くなります。そのメリットは大きいですし、今後、兼務は必須になるでしょうし、もっと取り組んでいかないといけないですね。

髙橋様:

ここ最近は検体採取を技師がすることも増えましたし、ICT、AST活動についてもそうですが、やはり検体採取からしっかり質を担保するために検査前プロセスから管理しないと質の高い検査につながらないと思います。今はあまり取り組めていない部分ですが、これからしっかりやっていかないといけないですね。

加藤様:

ICT、ASTについて我々臨床検査技師は他職種の分野についてもっと学ぶべきであり、微生物の知識も広めないといけないと思っています。例えば、当院では血液培養結果について「この菌種についてはこの抗菌薬をこのくらいの投与量で…」というような内容を電子カルテにコメントし、感染症治療への早期介入を試みています。抗菌薬の内容については薬剤部からコメントについて評価してもらっています。こういったやり取りがとても勉強になっています。

今後取り組みたい内容などお聞かせいただけますでしょうか

髙橋様:

検査の展望としては、コロナ禍で充実した遺伝子機器をどうやって活用していくかというのも話題になっていますね。

加藤様:

そうですね。ここはメーカーさんとも相談してやっていく必要がありますね。
そのほかには、秋田県厚生連については微生物検査システムが統一になっているので、それを利用して統計を出して、情報発信や共有をしたいと考えています。
また遺伝子検査を基礎から学べる環境を作りたいという想いもあります。
以前、秋田大学に「当院で分離された耐性菌について調べたい」と相談したこと、大学で研究をする場を提供してもらいました。半年くらい通い当時の研修医と一緒にESBL産生株の遺伝子解析を行い、学会発表まですることができとてもいい経験になりました。そのような遺伝子検査を基礎から学んだり研究できる環境をもっと広げていきたいと思っています。

貴重なお話を頂戴しありがとうございました

取材日:2023年1月

加藤 純 様(JA秋田厚生連 由利組合総合病院 臨床検査科 副技師長)
髙橋 智映 様(秋田大学医学部附属病院 中央検査部 副技師長)

ICT Mateに関する製品紹介資料のご請求は
こちらからお申し込みいただけます。

ICT Mateに関する説明、費用、
デモのご依頼については、
こちらからお問い合わせください。