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コラム

2026.04.14

【感染症内科ドクターの視点シリーズ⑲】
国内発症のレプトスピラ症が増加中!?

岡山大学学術研究院医歯薬学域 感染症学分野 教授

萩谷英大(はぎやひではる)先生

茨城県つくば市生まれ。岡山大学医学部卒業後、救急・集中治療領域での研鑽を経て、大阪大学医学部附属病院の感染制御部で感染制御・感染症診療を修得。総合内科専門医、日本感染症学会専門医/指導医、Certificate in Travel Health (CTH)、Certificate in Infection Control (CIC)など感染症関連の認定を取得。薬剤耐性菌が大好き(?)で、ヤバイ耐性菌が検出されたと聞くと逆にワクワクしてしまう性格を何とかしなければならないと感じている。

萩谷英大先生は、感染症の診断・治療と制御・対策、薬剤耐性、感染症の流行調査など、幅広い専門分野に精通されています。実際の現場で感染症診療や感染制御に従事すると同時に、研究活動にも注力されています。今回は、夏〜秋に報告が増えるレプトスピラ症について、国内疫学とリスク(河川レジャー・豪雨後曝露)を踏まえ、疑うべき臨床像と地衛研への相談・確定診断までの流れを解説します。

はじめに

世の中には本当に様々な病原微生物が存在し、多種多様な感染病態が存在するため、感染症の診療というものはつくづく興味深いなぁと思う今日この頃です。今回は、普段あまり考えることがないであろうレプトスピラ症を取り上げながら、皆さんの診療に役立つような情報をお届けしたいと思います。

レプトスピラとは

まずはレプトスピラ(Leptospira属)についておさらいしましょう。レプトスピラという微生物はスピロヘータの一種であり、細長く運動性を有するグラム陰性の螺旋(らせん)状微生物です。菌体内に鞭毛をもっており、これを使ってくねくね動くのがスピロヘータの特徴となります。ヒトに病原性を持つスピロヘータは3属あり、①レプトスピラ属:Leptospira interrogans、②トレポネーマ属:Treponema pallidum (梅毒)、③ボレリア属:Borrellia burgdorferi(ライム病)、Borrellia recurrentis(回帰熱)の3つです。中でもレプトスピラは、螺旋のピッチが細かく規則正しい形状をしており、数珠状とも表現されますが(左図)、菌体の両端が鈎状(hook)に屈曲しているのが特徴で、電子顕微鏡ではきれいな右巻き螺旋を観察することができます(右図)。


画像1.jpg画像2.jpg

(図)レプトスピラは、長さ6〜20μm 、直径0.1μmの螺旋状微生物。右図のfは被膜を透して観察される鞭毛(periplasmic flagella)。


レプトスピラの発見者

レプトスピラの最初の発見は日本人ということは御存じでしょうか?九州大学医学部の稲田龍吉先生(1874-1950)が、1915年2月にワイル病(重症レプトスピラ感染症)患者の血液から病原体を分離してSpirochaeta icterohaemorrhagiae と命名して発表したことが最初といわれています。その後、1918年には野口英世先生の提案で属名がLeptospiraに改められ、1966年に種名としてLeptospira interrogansが採用されたということです。


レプトスピラの臨床像

レプトスピラは、げっ歯類など感染動物の尿により病原性Leptospira属に汚染された水・土壌への曝露を契機に発症するため、ヒトにとっては人獣共通感染症(zoonosis)に分類されます。皮膚の微小損傷や粘膜を介した侵入が主な感染経路で、豪雨・洪水や河川でのレジャー後に集団発生することが国内外で報告されています。臨床像は非特異的で、インフルエンザ様症状、無菌性髄膜炎、肝炎、腎障害など多彩であり、日本のような症例が少ない非侵淫地では診断が遅れやすいことが懸念されます[1-2]


レプトスピラの疫学

日本で報告されるレプトスピラの約半数は沖縄県内であり、沖縄県で診療をする医師にとっては比較的なじみのある疾患かもしれません。しかし、それ以外の地域では診断するケースが少ないため、熱性疾患の鑑別にレプトスピラが全く入ってないというのが実情だと思います。


国内発症のレプトスピラ症は、職業曝露(農業、畜産、下水関連)に加えて、河川レジャーが重要なリスクとして注目されています[1]。国内サーベイランスでも、推定感染源として河川関連のレジャー/職業曝露が47%(121/258件)と大きな割合を占めることが分かっています。

動物の活動性が高い夏季シーズンにレプトスピラ症の報告も増加します。下図は、感染症法に基づいて報告されたレプトスピラ症の月別報告数を棒グラフで示したものです[3]。沖縄県もそれ以外の地域も、おおよそ7月から症例数が増加して9月をピークにその後減少して11月には落ち着くという傾向を見せています。

画像3.png

図. レプトスピラ症の国内月別報告数


レプトスピラの診断

レプトスピラは、感染症法上の4類感染症であり、医師は診断後直ちに最寄りの保健所へ届出が必要です。確定診断のための検査としては、発症早期の血液PCR検査、発症から1週以降の尿PCRおよび血清抗体の検出(顕微鏡下凝集試験 Microscopic Agglutination Test: MAT)が有用とされています[4]。しかし、日本ではコマーシャルベースでの検査方法がないため、地方衛生研究所を通じて国立感染症研究所に検体を送付して診断するしかありません。要するに、たまたま検査したら引っ掛かったという病気ではなく、臨床的に疑い、狙って検査を提出しないと診断されえない疾患という認識が重要だと思います。


もっと簡単にレプトスピラ症の診断ができないものかと考えて検索していたところ、琉球大学のToma先生らが尿中抗原検査でレプトスピラ症を診断する試みをされていることを知りました。Leptospira属由来の脂質代謝関連酵素である3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase(3-HADH)を尿中から検出することで、急性期から発症後9日目まで診断に利用できる可能性が論文として報告されています[5]。臨床応用には至っていませんが、このような臨床目線のレプトスピラ診断系の開発が今後も期待されます。私たちも、レプトスピラ症の早期診断方法を開発したいと考えており、岡山大学の研究室でも研究活動を始めたところです。


岡山県内での発症例

2025年夏、私たちは岡山県において2013年以来となる県内発症のレプトスピラ症を診断しました。患者さんは30代男性で、発熱、筋肉痛、倦怠感を主訴に救急外来を受診されました。問診上、約10日前(2025年9月)に岡山市内の河川でアクティビティ歴がありましたが、海外渡航歴・動物曝露歴はありませんでした。身体所見上は特記すべき異常はありませんでしたが、採血にて肝機能障害(総ビリルビン 1.3 mg/dL、AST 194 U/L、ALT 203 U/L、ALP 153 U/L、γ-GTP 346 U/L、LDH 433 U/L)、腎機能障害(Cr 1.85 mg/d)、高度炎症反応(CRP 24.5 mg/dL)を認めました。淡水曝露歴を有し、肝機能・腎機能障害を同時に発症する病態からレプトスピラ症が考えられたため、国立感染症研究所に相談をし、ペア血清による特異抗体上昇の結果からレプトスピラ症と診断することができました。


私は数年前にも、隣県の広島県で台風後の自然曝露に伴って発症したレプトスピラ症の診断に関与したことがあります[6]。レプトスピラ症の非侵淫地と考えられてきた中国地方でも、淡水曝露を契機にレプトスピラに感染する事例が存在することを目の当たりにしており、当然、他の地域でも同様の状況にあると推測しています。


まとめ

レプトスピラ症は、①臨床症状・検査所見が非特異的であること、②院内検査・外注検査での診断方法がないこと、③そもそも疾患が認知されていないため、国内未診断例が多く存在すると思います。レプトスピラ症の発生報告には季節性があり、7-10月に多くの症例が報告されています。初夏から秋にかけての発熱患者においては「2週間以内の淡水曝露歴」を聴取することを心がけ、肝臓・腎臓などの臓器障害を伴う場合には地方衛生研究所に相談していただきたいと思います。


【文献】

[1]Haake DA LPN. Leptospira and Leptospirosis. In: Adler B, editor. Leptospirosis in humans. Springer; 2015. p. 65–97.

[2]Bharti AR, Nally JE, Ricaldi JN, Matthias MA, Diaz MM, Lovett MA, et al. Leptospirosis: a zoonotic disease of global importance. Lancet Infect Dis. 2003;3:757–71.

[3]Hagiya H, Koyama T, Otsuka F. Epidemiological characteristics and trends in the incidence of leptospirosis in Japan: A nationwide, observational study from 2006 to 2021. Am J Trop Med Hyg. 2023;109:589–94.

[4]Musso D, La Scola B. Laboratory diagnosis of leptospirosis: a challenge. J Microbiol Immunol Infect. 2013;46:245–52.

[5] Toma C, Koizumi N, Kakita T, Yamaguchi T, Hermawan I, Higa N, et al. Leptospiral 3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase as an early urinary biomarker of leptospirosis. Heliyon. 2018;4:e00616.

[6] Yamamoto Y, Hagiya H, Hayashi R, Otsuka F. Case report: Leptospirosis after a typhoon disaster outside the endemic region, Japan. Am J Trop Med Hyg. 2023;109:587–8.

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