医療従事者向けお役立ち情報

コラム

2024.9.3

染方史郎のGame de 細菌楽➃
~菌血症ゲームFighting AMR

クリエーター名:

染方史郎(そめかたしろう)

本名:

金子幸弘(かねこゆきひろ)

1997年長崎大学医学部卒。国立感染症研究所などを経て、2014年から現職。薬が効かない「薬剤耐性菌」の研究をしています。また、染方史郎の名前で、オリジナルキャラクター「バイキンズ®」のイラストを描いています。過去に苦い経験のある細菌学、特に薬剤耐性菌をわかりやすく伝えています。そのような活動を評価いただき、2019年に第3回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰文部科学大臣賞をいただきました。バイキンズ®カードやオリジナルLINEスタンプも絶賛発売中です。
大阪公立大学大学院医学研究科細菌学・教授
兼務 大阪公立大学大学院医学研究科感染症科学研究センター
兼務 大阪公立大学大阪国際感染症研究センター

◆著作・連載
「染方史郎の楽しく覚えず好きになる 感じる細菌学x抗菌薬」(じほう, 2020)
インフェクションコントロール「バイキンズワールドへようこそ! LINE de微生物」(メディカ出版, 2018)
感染対策ニュース「染方史郎の細菌楽教室」シーズン1~3(丸石製薬, 2021~2023)
など

【詳細解説あり】薬剤耐性菌についてゲームで学ぼう!
今回のコラムも染方史郎こと大阪公立大学大学院医学研究科細菌学・金子幸弘教授に耐性菌について楽しく学べるオリジナルゲームのご紹介と解説をしていただきました。教育・研修にもご利用いただける内容となっておりますのでぜひご活用ください。

1.はじめに

第四弾、菌血症ゲームFighting AMRのご紹介です。菌血症・敗血症の基本的な治療薬選択を学ぶために作ったゲームです。独学で勉強したプログラミング言語(JavaScript)を使って初めて作成した思い入れのある作品です(ドヤ顔)。

それはともあれ、いつものように操作方法から説明します。中耳炎ゲーム同様、アクセスのたびに症例が変更になりますので、複数の展開が待っています。中耳炎ゲームと異なり、症例を積み重ねることができる設定となっています。さらに、初回の症例は6段階のレベルが用意されています。

タイトル画面のレベルボタンのうち1つを選んでクリック(タブレットや携帯端末ではタップ)してください。なお、タイトル画面をスクロールすると、ゲームのルール、開始方法と継続方法、抗菌薬の使用回数などの情報が記載されていますので、必要に応じてご覧ください。スタート後も確認できます。今回は、「レベル1A」を選択してみます。

画面最上部には、第1症例の重症度が、数値とスケールバーで示されます。今回は重症度28となっています。また、その下に治療開始時における身体所見、検査所見の概要が示されています。さらに、その下には血液培養のグラム染色像が記載されています。
「グラム陽性球菌(ブドウ状)」とありますので、MRSAを考慮して、VCMを選択します。なお、本文中の略語は、ページの最後にまとめておきます。
VCMは抗MRSA薬なので、アラートが表示されます。eGFR、つまり、腎機能に注意するためのアラートです。アラートの「OK」をクリックして閉じます。

治療が奏功し、重症度が少し下がって、25の中等症になりました。少し下にスクロールして、抗菌薬の使用回数も確認しましょう。すると、VCMのところが1になっているのがわかります。さらに、VCMは後述するAWaRe分類のWatchに相当する抗菌薬のため、Watchのところも1になっています。

もう一度、VCMをクリックします。重症度がさらに下がって、22になりました。培養の結果、MSSAと判明したことが、文字とイラストで表示されます。MSSAですので、VCMではなく、CEZが第一選択となります。ですが、今回はあえて、VCMを選択してみましょう。
すると、前回のアラートに加えて、「感受性判明後はデエスカレーションを考慮してください」というもう一つアラートが表示されます。このように、このゲームは、抗菌薬適正使用を意識し、菌種や感受性によって抗菌薬をもう一度選択するということを体感できるようになっています(ドヤ顔2)。こちらもOKをクリックして進みます。
次の選択は、CEZにしてみます。するとアラートが表示されずに、治療が進みます。このまま、最後までCEZで治療を続けましょう。
終わりが近づくと、「もうすぐ終わります・・・」というアラートが出ますので、OKをクリックしてください。

これで1つの症例が治療成功で終了しました。なお、無効な抗菌薬を選択すると重症度が上がり、重症度がある値を超えると、治療失敗となります。また、副作用で治療失敗することもあります。単に治療成功か失敗かだけではなく、どういう治療をしたかが重要です。そのため、治療経過の振り返りができるようにしていますので、要約を確認しましょう。治療回数や特定抗菌薬の使用回数などが示されています。

要約の下に、「もう一度」「次の症例」などのボタンがあります。

もう一度をクリックすると、経験症例がリセットされてしまいますので、次の症例をクリックして経験を積みましょう。10症例くらい積み重ねると、様々な細菌が経験できると思います。

途中経過は省略しますが、経験症例のリストを見てください。症例の概要、原因菌、選択した抗菌薬などが示されています。リストの下には、AWaRe分類も表示しています。
さらにその下には経験症例のサマリーがあり、もう少し細かい経過を確認することができます。

2.解説

いかがでしたか。今回は、グラム染色から原因菌を推定し、2回の治療後に感受性が確認できる設定になっています。
今回のゲームで出てくるキャラをご紹介しておきます。菌種としては3種類、黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌となっており、耐性によって、さらに分類されます。

レベル1で出てくるのは感受性菌で、MSSAとABPC感受性の大腸菌です。それぞれ、レベル1Aとレベル1Bで登場します。

レベル2では、MRSAが追加となり、レベル2AはMSSAとABPC感受性の大腸菌が、レベル2BではMSSAとMRSAが登場します。

レベル3では全てのキャラが登場しますが、レベル4の方が耐性菌の出現頻度が上がっています。
次に、選択可能な抗菌薬を示します。

10種に絞り、MDRP以外であれば、いずれかが奏功するように設定しています。なお、MDRPは相当ひどい抗菌薬選択をしない限り出現しない、レア中のレアキャラです。どうしても見たいという場合には、あえて不適正使用を実践してください。もちろん、臨床ではお勧めしない治療選択です。また、今回は紹介しませんが、カンジダリスクなど、よほど不適切な治療をしないと出てこないアラートもあります。

3. 学びを深める

中耳炎ゲームの時と同様、さらなる成長のため、「関連問題に挑戦」や「学びを深める」というページもあります。「関連問題に挑戦」では、治療終了したばかりの症例に関する復習問題が出題されます。

治療薬選択に関する解説

耐性菌と抗菌薬の一部に関しては、染方史郎のGame de 細菌楽①~VSAMRの中で紹介しているため、詳細は省略します。今回は、適正使用のためにどういう選択をすべきか、という解説をしておきます。
今回のように、感受性がわからないグラム陽性球菌(ブドウ状)が血液培養から検出されたらどう考えるでしょうか。MSSAとMRSAの両方の可能性が考えられます。つまり、両方をカバーする抗菌薬を選択する必要があります。言い換えれば、MRSAを考慮した選択が必要ということで、抗MRSA薬のVCM、ABK、LZDの中から選択します。ちなみに、VCMとABKでは腎機能(eGFR)、LZDでは血小板減少に注意します。

グラム陰性桿菌の場合はどうでしょうか。MDRPを除けば、TAZ/PIPCかMEPMが全てをカバーしますので、いずれかで開始することになります。

感受性判明後もVCMや広域抗菌薬などを使い続けると、デエスカレーションをするようにアラートが表示され続けます。

また、できるだけ実際の症例に近づけるように、qSOFAを自動的に計算し、敗血症を想定できるようにしました。

最初にリリースしたときになかったコンテンツとして、AWaRe分類とDASCがあります。AWaRe分類は、中耳炎ゲームで説明していますので、DASCについて説明しておきます。なお、重症度、抗菌薬インデックス、特定抗菌薬インデックスは、本ゲーム独自ですし、ゲーム内に解説してありますので、説明を省きます。

DASC(表1)

DASCとはDays of Antibiotic Spectrum Coverageの略語です。抗菌薬の使用日数×ASCスコアで計算されます。ASCの指標となる菌や耐性菌は15種類で、例えば、ABPCやMEPMのASCは次の表のように計算されます。ABPCは5種をカバーするので5、MEPMは12種をカバーするので12となります。

以下の論文に計算方法や77の各抗菌薬のASCスコアが定義されています。

Kakiuchi S et al. Days of Antibiotic Spectrum Coverage: A Novel Metric for Inpatient Antibiotic Consumption. Clin Infect Dis. 2022 Sep 10;75(4):567-576. doi: 10.1093/cid/ciab1034. PMID: 34910130.

表1  DASC(Days of Antibiotic Spectrum Coverage)
ABPC MEPM
Staphylococcus aureus 0 1
Streptococcus spp. 1 1
Enterococcus faecalis 1 1
Anaerobes (Oral) 1 1
Bacteroides fragilis 0 1
Moraxella / Haemophilus influenzae 1 1
Escherichia coli / Klebsiella pneumoniae 1 1
Enterobacter / Serratia / Citrobacter 0 1
Pseudomonas aeruginosa 0 1
Acinetobacter baumannii 0 1
非定型菌 0 0
ESBL産生菌 0 1
MRSA 0 0
PRSP 0 1
VRE 0 0
CRE 0 0
ASC 5 12

略語一覧

AMR
MSSA:methicillin-susceptible Staphylococcus aureus (メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)
MRSA:methicillin-resistant Staphylococcus aureus (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
ESBL:extended spectrum beta-lactamase (基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)
MDRP:multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa (多剤耐性緑膿菌)
qSOFA:quick sequential organ failure assessment
AWaRe:Access, Watch and Reseve
DASC:Days of Antibiotic Spectrum Coverage
eGFR:estimated glomerular filtration rate (推定糸球体ろ過量)
ABPC:ampicillin
TAZ/PIPC:tazobactam/piperacillin
CEZ:cefazolin
CTRX:ceftriaxone
CAZ:ceftazidime
CFPM:cefepime
MEPM:meropenem
VCM:vancomycin
ABK:arbekacin
LZD:linezolid

抗菌薬一覧

AWaRe分類 ASC
ABPC ペニシリン系薬 Access 5
TAZ/PIPC ペニシリン系薬(抗緑膿菌作用あり) Watch 11
CEZ 第一世代セファロスポリン系薬 Access 3
CTRX 第三世代セファロスポリン系薬 Watch 6
CAZ 第三世代セファロスポリン系薬(抗緑膿菌作用あり) Watch 6
CFPM 第四世代セファロスポリン系薬 Watch 8
MEPM カルバペネム系薬 Watch 12
VCM 抗MRSA薬、グリコペプチド系薬 Watch 5
ABK 抗MRSA薬、アミノグリコシド系薬 Watch 5
LZD 抗MRSA薬、オキサゾリジノン系薬 Reserve 6

セファロスポリン系薬は、第一世代、第二世代には抗緑膿菌作用がありませんが、第四世代は抗緑膿菌作用があります。第三世代は、抗緑膿菌作用があるものとないものにわかれます。

情報共有・拡散大歓迎

ご自身はすでにご存じの場合でも、適正使用を普及しようという方にも、教育用にご利用いただければと思います。くどいようですが、無料です。ただ、よろしければ、ご利用状況をSNSで配信したり、情報を共有したりできれば幸いです。

  

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