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コラム

2024.11.7

感染症内科ドクターの視点シリーズ⑤
IGRAによる結核診断の実践と展望~QFTとT-SPOTの比較~

岡山大学病院 感染症内科 准教授

萩谷英大(はぎやひではる)先生

茨城県つくば市生まれ。岡山大学医学部卒業後、救急・集中治療領域での研鑽を経て、大阪大学医学部附属病院の感染制御部で感染制御・感染症診療を修得。総合内科専門医、日本感染症学会専門医/指導医、Certificate in Travel Health (CTH)、Certificate in Infection Control (CIC)など感染症関連の認定を取得。薬剤耐性菌が大好き(?)で、ヤバイ耐性菌が検出されたと聞くと逆にワクワクしてしまう性格を何とかしなければならないと感じている。

萩谷英大先生は感染症の診断・治療と制御・対策、薬剤耐性、感染症の流行調査など、幅広い専門分野に精通されています。実際の現場で感染症診療や感染制御に従事すると同時に、研究活動にも注力されています。今回は「結核診断」をテーマに、QFTとT-SPOTの特徴や利点、さらに日本におけるIGRAの進化を振り返りながら、効果的な結核感染評価について解説していただきます。

結核とは

結核は、Mycobacterium tuberculosis(結核菌)による感染症で、HIV/AIDS・マラリアと並ぶ世界3大感染症です。地球上で約17億人(4~5人に1人)が結核曝露者であると見積もられており、公衆衛生上のインパクトは国内外においていまだ非常に大きい感染症です[1]。世界保健機関(WHO)は、“End TB Strategy”(世界結核終息戦略)を打ち出し、2030年までに世界中から結核を排除することを目指して活動しています[2]。日本国内でも、全国サーベイランスの整備・展開、保健所による陽性患者のモニタリング、潜在性結核感染症に対する積極的な治療などで結核罹患率・死亡率が経年的に低下し[3]、2021年には中等度蔓延国から低蔓延国(人口10万人当たりの結核陽性者が10人未満)に認定されることになりました。
結核は肺以外にもリンパ節炎・胸膜炎・喉頭炎・腹膜炎・腸粘膜障害・ブドウ膜炎・髄膜炎・心膜炎・関節炎・筋肉膿瘍・骨髄炎など様々な形で活動性感染症を起こすため、様々な疾患の鑑別疾患として、常に頭の片隅に入れておく必要があります。特に、亜急性~慢性に経過する消耗性・発熱性・炎症性の病像を呈する患者さんでは、結核の可能性を最初から否定しないことが適切な診断に至るためのコツだと思います。
高齢の患者さんは、戦前後の結核流行期に感染したという方が多いですが、行動経済成長期以降に生まれた方の場合、国内感染の事例は稀です。しかし、インバウンド人口が増加した現在、海外からの渡航者や若手労働者が日本滞在中に結核を発病するというケースが多く、若年世代における結核も無視できない状況になってきています。

結核の診断

結核は一般的な細菌感染症の診断で実施されるグラム検査・培養検査では検出することができないため、疑った場合には結核診断のための検査を提出する必要があります。その検査として、チール・ニールゼン染色、抗酸菌培養、PCR検査、そしてIGRA(インターフェロンγ遊離アッセイ)があります。本特集のテーマはIGRAですが、結核の塗抹染色検査の理解は重要ですので、簡単にそのポイントをご紹介します。

①チール・ニールゼン染色(図1)

チール・ニールゼン染色は、もっとも簡便かつ迅速に実施できる検査方法です。特に肺結核を診断した、もしくは疑っている状況では、周囲のヒトへの感染性を評価する必要がありますが、その際には「3連痰」といって、3回連続で喀痰のチール・ニールゼン染色を行うことが推奨されています。「3連痰」が陰性であれば、たとえ活動性の肺結核であっても周囲への感染性はないと判断することが可能です。古典的には24時間間隔で「3連痰」の検体を提出することが一般的ですが[4]、8時間間隔でも陽性率に影響はないとする報告もあり[5]、多くの病院では丸1日かけて8時間毎に喀痰検査をしているのが実情ではないかと思います。
当たり前ですが、粘性痰と膿性痰では膿性痰の塗抹陽性率が高く、1-2回の塗抹検体で診断がつくことがおおいとされています[6]。さらに、早朝痰と日中痰を比較すると、早朝に採取された痰の方が菌数が多いこともわかっています[5]。すなわち、「3連痰」においては「早朝の膿性痰」が最も検査感度が高いと考えられるため、特に入院している患者さんなどでしっかりと肺結核の感染性を評価したいときには、「早朝の膿性痰」をとることを意識してください。

図1

図1:チール・ニールゼン染色

②蛍光染色(図2)

蛍光染色は、特殊な検査機器が必要ですが、検査感度がチール・ニールゼン染色に比べて10%程度高いとされています[7]。時間と手間暇はかかりますが、検査設備が備わっている施設では、チール・ニールゼン染色よりも蛍光染色を選択した方がいいでしょう。

図2

図2:蛍光染色

IGRAの考え方

それでは本来のテーマであるIGRAについて詳しくご紹介していきたいと思います。IGRAはインターフェロンγ遊離試験(Interferon-Gamma Release Assay)であり結核の補助診断検査として使用されるようになりました。かつては、結核の罹患歴調査としてツベルクリン反応が用いられてきましたが、①手技的に難しいこと(皮内注射)、②BCG接種歴があると陽性になってしまうこと、などから臨床的な評価はイマイチでした。
そこで登場したのがIGRAで、QFT(クオンティフェロン)とT-SPOT(T スポット®. TB)に大別されます。IGRAは、BCGには存在しない結核菌特異抗原(ESAT-6とCFP-10)をターゲットとした検査であり、BCGワクチン接種歴の有無に関係なく結核罹患歴を評価することが可能です。ツベルクリン反応に比べて費用対効果が高く、多くの先進諸国では結核曝露後の感染確認検査として広く検査されています[8]

IGRAの使い方:QFT vs. T-SPOT

皆さんの施設ではQFTとT-SPOTのどちらを採用しているでしょうか?特にこだわりはない、よく知らない、考えたこともない・・・など様々かもしれません。臨床現場でIGRAを測定するシチュエーションの多くは、①抗がん剤や免疫抑制剤の導入前に潜在性結核感染症(latent TB infection, LTBI)の有無を評価するケース、②活動性結核の補助診断としてチェックするケース、③結核曝露後に感染が成立していないか否かを評価するケース(接触者健診)などだと思います。どの場合も、可能な限り高い検査感度をもって結核の否定をする必要がありますので、そういう視点で二つの検査を比較する必要があるでしょう。
一般に、リンパ球機能が低下するとインターフェロンγの産生が減少します。加齢に伴い、多かれ少なかれリンパ球機能は低下するため、高齢者ではIGRAが偽陰性になる確率が高まるとされています(waning現象)。一方で、逆説的な事実として日本を含めた先進国では高齢者における結核の罹患率が高く、この歯がゆい事実を解決するためにIGRAは改善されてきました。
日本のIGRAの歴史を振り返ってみましょう。2005年にはじめてクォンティフェロン® TB-2G(QFT-2G)が保険適応となり、2010年頃にはクォンティフェロン® TB ゴールド(QFT-3G)に世代交代となりました。2012年にT-SPOTが登場し、臨床現場のIGRAのシェアはQFTからT-SPOTへ一気に傾きました。その後、2018年に様々な改良を重ねて開発されたクォンティフェロン® TB ゴールドプラス(QFT-4G or QFT-Plus)が保険承認されて今に至ります。アップル社のiPhoneほどではありませんが、QFTもR&Bと世代交代を経て最新型が市場参入しているのです。
QFT-Plusは、それまでのQFT-3Gと異なり、CD4陽性リンパ球に加えて、CD8陽性リンパ球を介するインターフェロンγも測定することで、特に高齢患者や免疫不全者における検査感度が向上するように設計されています。また、判定基準についてもQFT-Plusでは「判定保留」がなくなったため、再測定の必要な症例が半減すると報告されています。
ここで、日本人高齢者におけるQFT-PlusとT-SPOTの検査精度を評価した興味深い研究がありますのでご紹介します。長崎県の結核病院で142人の活動性結核の患者さんを対象に研究が行われました[9]。患者さんの年齢の中央値は84歳(四分位範囲:76-89歳)で非常に高年齢の方を対象とした研究であることがポイントです。判定不能例を除くと、QFT-PlusとT-SPOTの検査感度はそれぞれ93.6%、68.1%と、QFT-Plusで有意に感度が高いという結果になりました(表1)。また、CD4カウントが200未満の方に対象を絞っても、QFT-PlusとT-SPOTの検査感度はそれぞれ83.7%、58.1%とQFT-Plusの方が優れているという結果でした。

表1.QFT-PlusとT-SPOTの検査感度
QFT-Plus T-SPOT
全体 (N=260) 93.6% (132/141) 68.1% (92/135)
 80歳未満 (N=42) 92.9% (39/42) 61.9% (26/42)
 80歳以上 (N=100) 93.0% (93/100) 66% (66/100)
 CD4 <200/μL (N=43) 83.7% (36/43) 58.1% (25/43)
 CD4 ≥200/μL (N=99) 97.0% (96/99) 67.7% (67/99)

リンパ球機能が低下しているHIV患者を対象にしたQFT-PlusとT-SPOTの比較研究でも、同じ集団を対象にしているにもかかわらず検査陽性率はQFT-Plusで7.6%、T-SPOTで2.7%と報告されています[10]。つまり、T-SPOTを選択した場合、結核罹患歴のあるHIV患者さんを1/3程度しか認識できないということになります。

以上より、本特集のテーマである「IGRAの使い方」のまとめとしては、①検査感度が高いこと、②判定保留が減ること、を理由に(T-SPOTよりも)QFT-Plusが優先されると結論付けたいと思います。2021年に日本結核・非結核性抗酸菌症学会予防委員会より発表された「インターフェロンγ遊離試験使用指針2021」にもQFT-Plusは推奨検査として紹介されていますし、2022年に世界保健機関(WHO)から発行された声明文書では、T-SPOTよりもQFT-Plusを推奨するという記載がされるようになっており[11]、関連団体もQFT-Plus推しの状況にあると思います。

~コラム:ちょっと知っていると鼻が高いかも~

最後に、QFT検査の弱点かつ応用ともいえるポイントについて紹介します。ここまで知って臨床活用できていれば、あなたはもう専門医レベルです!

①抗IFN-γ抗体保有者のスクリーニング

アジア人の中には一定の割合で抗IFN-γ抗体を保有する人がおり、播種性非結核性抗酸菌症の発症リスクが高いとされています[12]。抗IFN-γ抗体は通常の外注検査では確認することができませんが、IGRAの特徴を利用することで推定することが可能です。QFTは、リンパ球により産生されるIFN-γの測定系であるため、抗IFN-γ抗体が存在すると陽性コントロールが反応せず「判定不可」の結果になることが知られています。一方で、T-SPOTはそのような偽陰性反応はないため、QFTが「判定不可」、T-SPOTが「判定可能」(陽性・陰性にかかわらず)のパターンの場合は抗IFN-γ抗体の保有患者かもしれません。

②非結核性抗酸菌とのクロスリアクション

IGRAはBCGや非結核性抗酸菌との交差反応がないということがポイントですが、結核菌以外の一部の抗酸菌に反応して偽陽性の原因になることが知られています。その抗酸菌はMycobacterium kansasii,Mycobacterium szulgai,Mycobacterium marinumとされており、臨床的には稀ですがこれらの抗酸菌感染症の診断がついている患者さんにおいてはIGRAの陽性結果は慎重に判断する必要があると思います。

【文献】

[1]Cohen A, Mathiasen VD, Schön T, Wejse C. The global prevalence of latent tuberculosis: A systematic review and meta-analysis. Eur Respir J 2019;54:1900655.

[2]World Health Organization. Global Tuberculosis report 2021 2022.
https://www.who.int/teams/global-tuberculosis-programme/tb-reports.

[3]Hagiya H, Koyama T, Zamami Y, Minato Y, Tatebe Y, Mikami N, et al. Trends in incidence and mortality of tuberculosis in Japan: A population-based study, 1997-2016. Epidemiol Infect 2019;147:1–10.

[4]Jensen PA, Lambert LA, Iademarco MF, Ridzon R, CDC. Guidelines for preventing the transmission of Mycobacterium tuberculosis in health-care settings, 2005. MMWR Recomm Rep 2005;54:1–141.

[5]Iwata K, Doi A, Nakamura T, Yoshida H. The validity of three sputum smears taken in one day for discontinuing isolation of tuberculosis patients. Int J Tuberc Lung Dis 2015;19:918–20.

[6]小林賀奈子, 矢野 修一, 西川恵美子, 岩本 信一, 多田 光宏, 門脇 徹, 木村 雅広, 池田 敏和. 結核診断に必要な喀痰塗抹検査回数. Kekkaku 2017;92:13.

[7]Steingart KR, Henry M, Ng V, Hopewell PC, Ramsay A, Cunningham J, et al. Fluorescence versus conventional sputum smear microscopy for tuberculosis: a systematic review. Lancet Infect Dis 2006;6:570–81.

[8]Linas BP, Wong AY, Freedberg KA, Horsburgh CR Jr. Priorities for screening and treatment of latent tuberculosis infection in the United States. Am J Respir Crit Care Med 2011;184:590–601.

[9]Fukushima K, Kubo T, Akagi K, Miyashita R, Kondo A, Ehara N, et al. Clinical evaluation of QuantiFERON®-TB Gold Plus directly compared with QuantiFERON®-TB Gold In-Tube and T-Spot®.TB for active pulmonary tuberculosis in the elderly. J Infect Chemother 2021;27:1716–22.

[10]Igari H, Takayanagi S, Yahaba M, Tsuyuzaki M, Taniguchi T, Suzuki K. Prevalence of positive IGRAs and innate immune system in HIV-infected individuals in Japan. J Infect Chemother 2021;27:592–7.

[11]World Health Organization. Use of alternative interferon-gamma release assays for the diagnosis of TB infection. WHO Policy Statement 28/Jan/2022.
https://www.who.int/publications/i/item/9789240042346 (accessed 28/Sep/2024).

[12]Aoki A, Sakagami T, Yoshizawa K, Shima K, Toyama M, Tanabe Y, et al. Clinical significance of interferon-γ neutralizing autoantibodies against disseminated nontuberculous Mycobacterial disease. Clin Infect Dis 2018;66:1239–45.

  

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