医療従事者向けお役立ち情報

コラム

2024.2.20

染方史郎のGame de 細菌楽①~VSAMR

クリエーター名:

染方史郎(そめかたしろう)

本名:

金子幸弘(かねこゆきひろ)

1997年長崎大学医学部卒。国立感染症研究所などを経て、2014年から現職。薬が効かない「薬剤耐性菌」の研究をしています。また、染方史郎の名前で、オリジナルキャラクター「バイキンズ®」のイラストを描いています。過去に苦い経験のある細菌学、特に薬剤耐性菌をわかりやすく伝えています。そのような活動を評価いただき、2019年に第3回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰文部科学大臣賞をいただきました。バイキンズ®カードやオリジナルLINEスタンプも絶賛発売中です。
大阪公立大学大学院医学研究科細菌学・教授
兼務 大阪公立大学大学院医学研究科感染症科学研究センター
兼務 大阪公立大学大阪国際感染症研究センター

◆著作・連載
「染方史郎の楽しく覚えず好きになる 感じる細菌学x抗菌薬」(じほう, 2020)
インフェクションコントロール「バイキンズワールドへようこそ! LINE de微生物」(メディカ出版, 2018)
感染対策ニュース「染方史郎の細菌楽教室」シーズン1~3(丸石製薬, 2021~2023)
など

【詳細解説あり】薬剤耐性菌についてゲームで学ぼう!
今回のコラムは染方史郎こと大阪公立大学大学院医学研究科細菌学・金子幸弘教授に耐性菌について楽しく学べるオリジナルゲームのご紹介と解説をしていただきました。教育・研修にもご利用いただける内容となっておりますのでぜひご活用ください。

1.はじめに

はじめまして、染方史郎こと、大阪公立大学大学院医学研究科細菌学の金子幸弘です。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、細菌学や薬剤耐性菌を楽しく学ぶために、いくつかの活動をしております。詳しくは著者略歴もご覧ください。
さて、今回は、現在最も無駄に力を入れている関連ウェブゲームのご紹介です。無料で楽しめますので、是非お立ち寄りください。

2.まずはゲームに挑戦しましょう!

操作方法は極めて単純です。上記の関連ウェブゲームにアクセスすると図左の画面が表示されます。後述のQRコードからもアクセス可能です。画面が表示されたら、画⾯の下にある5種類の抗菌薬(セファゾリンが2つありますので、6つのボタンがあります)の中から1つ選択して、対戦ボタンをクリックするだけです(図1、図2)。選択した時点で抗菌薬が表示されますが、対戦ボタンを押す前なら何度でも変更可能です。
画面一番上のバーは対戦相手の数を示しており、倒すごとにバーが短くなります(図3)。ハートマークは自身のライフで、一度でも失敗するとライフは消滅します。したがって、一度も失敗せずに6体を倒すことができればバーが消滅し「GAME CLEAR」(図4)、一度でも失敗すると「GAME OVER」(図5)となります。
後ほど解説をつけますが、解説に進む前に、まずはゲームを試してみてください。

  

3. それでは解説です

いかがでしたか。このゲームの肝は、一度使用した抗菌薬は使えなくなる点です。実際の臨床ではそんなことは起こりませんが、適切な使用を促進するための工夫です。感受性菌に広域抗菌薬を使用すると、耐性菌に対する抗菌薬が足りなくなる設計となっており、クリアするための最善手は1つしかありません。分からなかった方は、MIC Dataのまとめと有効・無効の対応表を示しますので、これらを見ながら最善手を考えてみてください(表1)。

表1 対戦相手と抗菌薬の対応表
MSSA MRSA ABPC-S
大腸菌
ABPC-R
CEZ-S
大腸菌
ESBL産生
大腸菌
緑膿菌
ABPC × × × × ×
CEZ × × ×
CAZ × × ×
MEPM ×
VCM × × × ×

ABPC:アンピシリン、CEZ:セファゾリン、CAZ:セフタジジム、MEPM:メロペネム、VCM:バンコマイシン、ESBL:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ

正解はわかりましたか。まず、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌にはメロペネムしか効きませんから、ESBL産生大腸菌にメロペネムを使います。すると、緑膿菌は、残りのうちセフタジジムしか効きませんから、緑膿菌にはセフタジジムを使います。MRSAにはバンコマイシンしか効きませんので、残りはアンピシリンとセファゾリンとなります。アンピシリンが効くのは、ABPC-S大腸菌しかありませんので、まとめると次のようになります(表2、図6)。

表2 本ゲームにおける最善手
MSSA MRSA ABPC-S
大腸菌
ABPC-R
CEZ-S
大腸菌
ESBL産生
大腸菌
緑膿菌
ABPC
CEZ
CAZ
MEPM
VCM
耐性菌と抗菌薬
  

4. さらに学びを深めるために

解説までお読みいただければ十分かもしれませんが、さらなる成長のため、もう少し耐性菌と抗菌薬の解説もつけておきます。ご自身の学びだけではなく、教育普及活動などにぜひご活用下さい。

耐性菌の解説

耐性菌を知るには、感受性菌の理解も欠かせませんので、感受性菌も含めて解説します。本ゲームで扱った耐性菌のみですが、耐性菌を知る契機になればと思います。

耐性菌

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus

グラム陽性球菌の一つで、MSSAがメチシリン感受性(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus)、MRSAがメチシリン耐性(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)です。アンピシリンが有効なMSSAもいますが、MSSAの半数以上がPC1というペニシリナーゼを保有しているため、本ゲームでもアンピシリンには耐性であるという設定にしています。メチシリンは、PC1に耐性のペニシリンですが、日本では使用できないため、スペクトルが類似した第一世代セファロスポリン系薬のセファゾリンを使用します。
MRSAはmecA遺伝子という耐性遺伝子を持ち、メチシリンだけではなくβ-ラクタム系薬全てが無効です。mecAはβ-ラクタム系薬が結合しにくい細胞壁合成酵素PBP2’をコードしています。MRSA感染症は感染症法の5類定点報告の対象です。
抗MRSA薬として、バンコマイシン以外に、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリド、テジゾリド、ダプトマイシンがあります。本ゲームでは、最も利用頻度の高いバンコマイシンだけにしています。

大腸菌(Escherichia coli)

大腸菌(Escherichia coli

グラム陰性桿菌の一つで、腸内細菌科細菌の代表です。本ゲームで紹介する感受性パターンは、アンピシリン感受性、アンピシリン耐性・セファゾリン感受性、ESBL産生菌の3つです。特に注意が必要なのが、近年右肩上がりで増加しているESBL産生菌です。広域抗菌薬であるカルバペネム系薬が使用される最たる感染症の原因菌です。実際には、カルバペネム系薬以外の抗菌薬も使われることがありますが、プログラムが複雑になりすぎるため、単純にカルバペネム系薬であるメロペネムを選択するという設定にしました。尚、その他の選択肢としては、β-ラクタマーゼ配合ペニシリン系薬であるタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)、セファマイシン系薬のセフメタゾール(CMZ)があります。

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa

グラム陰性桿菌の一つで、ブドウ糖非発酵菌と呼ばれる細菌群の代表です。環境菌で、アンピシリンなどの抗菌薬には自然耐性を示します。第三世代セファロスポリン系薬のうち抗緑膿菌作用のあるセフタジジムや第四世代セファロスポリン系薬、カルバペネム系薬のメロペネムがしばしば使用されます。本ゲームでは、適正使用の観点から、セフタジジムを使用する設定にしています。また、本ゲームで出てきませんが、カルバペネム耐性緑膿菌(CRPA)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)が知られています。MDRPは、カルバペネム系薬、アミノグリコシド系薬、キノロン系薬の3系統に耐性の緑膿菌で、MDRPによる感染症は感染症法の5類定点報告の対象です。

抗菌薬の解説

本ゲームで取り上げた抗菌薬は、使用頻度の高い5種類を選りすぐっていますので、この5種類を使いこなすことが大切です。

β-ラクタム系薬

最も種類が多いため、さらに分類されており、主な分類は、ペニシリン系薬、セフェム系薬、カルバペネム系薬です。詳細は割愛しますが、抗菌薬の名前(語尾または語頭)から系統が推定できます。
最もよく使用される系統でもあり、せっかくの機会ですから、本ゲームでは採用していない抗菌薬とも比較しながら解説します。

アンピシリン(ABPC)

半合成のペニシリン系薬で、アミノ基という「旨み」を配合し、グラム陰性菌に対するスペクトルを広げた抗菌薬です。ただし、緑膿菌を初めとするブドウ糖非発酵菌には無効です。尚、アンピシリンの弱点である緑膿菌にまでスペクトルを広げたペニシリン系薬としてピペラシリン(PIPC)があり、β-ラクタマーゼ阻害薬であるタゾバクタム(TAZ)との合剤であるタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)があります。TAZ/PIPCはペニシリン系薬としては例外的に広域抗菌薬の一つとして扱われています。

セファゾリン(CEZ)

第一世代セファロスポリン系薬の代表です。どちらかというとグラム陽性菌にスペクトルが傾いており、MSSAに対する第一選択薬ですが、感受性があれば大腸菌にも使えます。

セフタジジム(CAZ)

第三世代セファロスポリン系薬のうち、抗緑膿菌作用がある抗菌薬です。緑膿菌にまでスペクトルが広がった代わりに、グラム陽性菌に対する抗菌力は第一世代セファロスポリン系薬より劣っています。
尚、セフェム系薬は、セファロスポリン系薬とセファマイシン系薬を含む分類で、ほとんどがセファロスポリン系薬です。セファマイシン系薬はほぼセフメタゾール(CMZ)に限られます。
また、セファロスポリン系薬は、第一~第四世代に分かれており、第一世代と第二世代には抗緑膿菌作用がなく、第三世代は抗緑膿菌作用を持つものと持たないものに分かれます。抗緑膿菌作用を持たない第三世代としては、セフトリアキソン(CTRX)が代表的です。第四世代は抗緑膿菌作用を持ちつつ、グラム陽性菌に対する抗菌力は第一世代と同等です。第四世代も広域抗菌薬として扱われます。

メロペネム(MEPM)

カルバペネム系薬の代表です。グラム陽性菌からグラム陰性菌までカバーします。カルバペネム系薬は、β-ラクタム系薬では最も広域の抗菌薬の系統です。セファロスポリン系薬が苦手とする嫌気性菌もカバーします。

グリコペプチド系薬

バンコマイシン(VCM)

抗MRSA薬の代表格で、最もよく使用されます。MSSAにも効きますが、MSSAに対する抗菌力はセファゾリンに劣ります。したがって、感受性が分かるまではバンコマイシンを使用することがありますが、MSSAであることが判明したらセファゾリンにデエスカレーションすることが重要です。もちろん、抗菌薬適正使用という観点からもデエスカレーションが推奨されます。
尚、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)は日本では報告がありませんが、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が近年増加傾向にあり、注目を集めています。

情報共有・拡散大歓迎

ぜひ多くの方に見てもらいたいので、適正使用の普及や教育にもご利用いただければと思います。くどいようですが、無料です。ただ、よろしければ、ご利用状況をSNSで配信したり、情報を共有したりできれば幸いです。

お知らせ

Fil-GAP 抗菌薬適正使用研修会

2024年8月4日(日)に、抗菌薬適正使用促進のための研修会、Fil-GAP(Facilitative Gathering for Appropriate Antimicrobial Practice)を開催いたします。抗菌薬適正使用に関する知識格差を埋めるという思いを込めてFil-GAPと名付けました。参加募集は4月以降の開始を予定しております。ホームページはすでに開設していますので、詳細はそちらをご覧ください。LINE公式アカウントもありますので、あわせてご確認、ご登録ください。参加登録のお知らせなどをLINE公式アカウントからも配信予定です。

  

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