医療従事者向けお役立ち情報
コラム
2024.4.18
【詳細解説あり】薬剤耐性菌についてゲームで学ぼう!
今回のコラムも染方史郎こと大阪公立大学大学院医学研究科細菌学・金子幸弘教授に耐性菌について楽しく学べるオリジナルゲームのご紹介と解説をしていただきました。教育・研修にもご利用いただける内容となっておりますのでぜひご活用ください。
※端末によりフォントなどが若干異なります
前回のVSAMRに引き続き、第二弾、バイキンズウォーのご紹介です。こちらの方が、VSAMRよりも数年前にリリースした作品です。元々、子供向けに作ったものですので、VSAMRよりもストーリー性があってゲーム感があるのではないかと思います。
例によって、操作方法から説明します。ただし、選択したボタンによってストーリーが若干変わってくるため、標準的なストーリーで説明します。
タイトル画面表示の後、メッセージが流れますので、読んだらクリック(タブレットや携帯端末ではタップ)して進んでください。
ニックネームを決めようという表示をクリックしたら、好きな名前を入力して次に進んでください。入力した文字は、サーバーに残ることはありませんので安心して好きな名前で結構です。決定ボタンを押すと、確認されますので、「これでいい」もしくは「変更する」をクリックして選択してください。「変更する」を選択した場合は、再度入力しなおすことになります。
いよいよ本編の始まりです。最初はスキン村です。最初の敵は、ブドウキューキン(ブドウ球菌)です。ペニシリナーゼを持っていますが、mecAを持たないという設定です。「ペニシリンG」「セファゾリン」「バンコマイシン」のいずれかを選択してください。有効であっても、1度では倒せないようになっていますので、複数回選択してください。
ブドウキューキンを倒したら、次はラングフィールドでハイエンキューキン王(肺炎球菌)と戦います。「ペニシリンG」「セフタジジム」「エリスロマイシン」のいずれかを選択してください。こちらも1度では倒せないようになっていますので、複数回選択してください。
ハイエンキューキン王を倒すと、ワクチンを選択する画面になりますので、「PPV23」「Hib」「DTaP」のいずれかを選択してください。子供向けにしては難しすぎる気もしますが、学生の教育にも使いますので難しくしています。
画面が変わり、本部で途中経過の点数が発表されます。しばらくメッセージが続いた後、ブドウキューキンが復活したことが告げられます。再度、スキン村でブドウキューキンと戦います。実は、これまでの選択によってストーリーが変化し、メチシリン感受性かメチシリン耐性かが変わってきます。また、メチシリン感受性の場合でも、治療の選択肢が初回とは異なりますので要注意です。「セファゾリン」「セフタジジム」「バンコマイシン」のいずれかを選択してください。
再度、途中経過の点数が発表されます。また、「休養中」に表示されるメッセージが次のヒントになっていますので、よく読んで進んでください。
いよいよ最後の戦いです。コロンタウンでベロダシ(腸管出血性大腸菌、ベロ毒素産生大腸菌)と戦います。「レストランから遠ざける」「ニューキノロンで一撃」「何もせず帰る」のいずれかを選択してください。
全ての任務が完了すると、最終評価が発表されます。なお、ワクチンの選択を誤ると、最後におまけのあいつが出現します。
後ほど解説をつけますが、解説に進む前に、まずはゲームを試してみてください。
点数はいかがでしたか。前回のゲームと異なり、GAME OVERということはありません。ただ、正しい選択のみで終了すると100点、誤るとどんどん点数が低くなります。また、第三世代セファロスポリン系薬を使いすぎるとMRSAが出現します。意図的に間違ってみるというのもありだと思います。参考までにお手本をお示しします。
最初の相手、ブドウキューキンに対しては、セファゾリンが第一選択です。セファゾリンは、第一世代セファロスポリン系薬です。ペニシリナーゼ(+)なのでペニシリンGは無効です。また、mecA(-)でメチシリン感受性なので、バンコマイシンは過剰です。
次の相手、ハイエンキューキン王に対しては、ペニシリンGが第一選択です。ペニシリンGはいわゆる古典的ペニシリンで、今回は、ラングフィールドということで、肺炎を想定しているため、ペニシリンGで十分治療が可能であることを理解してほしいという意図です。セフタジジムは第三世代セファロスポリン系薬で、抗緑膿菌作用を有する代わりに、グラム陽性菌に対する活性が劣っており、適応になりません。また、エリスロマイシンはマクロライド系薬で、日本では80%近くが耐性となっています。ちなみに、背景のイラストは某○○フィールドという米国の野球場の写真を加工したものです。また、予防のためのワクチンはPPV23を選択します。PPV23は23価肺炎球菌莢膜多糖ワクチンです。Hibはb型インフルエンザ菌、DTaPはジフテリア、破傷風、無細胞性百日せきの3種混合ワクチンです。なお、肺炎球菌ワクチンとして、PCV13(13価蛋白結合型ワクチン)もありますが、用途が異なります。紛らわしいので今回のゲームには含めていません。
再度、ブドウキューキンが登場しますが、mecA(-)の場合と、mecA(+)の場合があります。mecA(-)の場合は先に述べた通りですので、mecA(+)の場合について解説します。メチシリン耐性ですので、MRSAを想定しています。MRSAには全てのβ-ラクタム系薬が無効ですので、セファゾリン、セフタジジムは無効です。バンコマイシンは代表的な抗MRSA薬ですので、バンコマイシンが第一選択となります。
最後に登場するベロダシは、ベロ毒素を出すというキャラで、腸管出血性大腸菌を表現しています。急激な菌の崩壊によって症状を悪化させる可能性があるため、ニューキノロンでの治療に関しては賛否あります。そのため、返り血を浴びるという設定にしました。腸管出血性大腸菌感染症が、感染症法の3類感染症であり、飲食業などの就業制限があることを知ってもらいたいとの意図から、「レストランから遠ざける」という選択肢を正解としています。
さらなる成長のため、もう少し掘り下げて解説しましょう。ご自身の学びだけではなく、教育普及活動などにぜひご活用下さい。
前回のゲームと一部重複しますが、復習と思って読んでいただければと思います。若干表現も変更しています。
ブドウ球菌を表現しています。コアグラーゼの有無により、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とそれ以外のブドウ球菌*に分けられます。コアグラーゼは血液を凝固させる病原因子で、菌の団結力を高めています。また、ブドウ球菌にも元来ペニシリンGが効いていましたが、PC1というペニシリナーゼを産生するようになり、通常のペニシリンが効かなくなりました。そこで開発されたのが、PC1で分解されないメチシリンです。ただし、日本ではメチシリンが使えなかったため、その代替として第一世代セファロスポリン系薬であるセファゾリンが用いられています。
しかしながら、メチシリンに耐性の黄色ブドウ球菌が出現しました。MRSA(methicillin-resistant S. aureus)です。なお、耐性が出現したため、感受性をMSSA(methicillin-susceptible S. aureus)と呼ぶようになりました。メチシリン耐性因子は、分解酵素ではなく、mecAという遺伝子にコードされた細胞壁合成酵素PBP2’です。β-ラクタム系薬はPBPという細胞壁合成酵素に結合することで細胞壁の合成を阻害する抗菌薬ですが、PBP2’は細胞壁合成の機能を有したまま、β-ラクタム系薬に結合しにくい性質を持っています。
MRSAに対しては、治療薬の開発が進み、抗MRSA薬として、4系統、6種類の抗菌薬が利用可能となっています。
グリコペプチド系薬 | バンコマイシン | TDM*が必要 | 注射のみ |
---|---|---|---|
テイコプラニン | |||
アミノグリコシド系薬 | アルベカシン | ||
リポペプチド系薬 | ダプトマイシン | TDMが不要 | |
オキサゾリジノン系薬 | リネゾリド | 注射・内服 | |
テジゾリド |
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を表現しています。グラム陽性双球菌で、市中肺炎の原因菌としては堂々の第一位です。髄膜炎と髄膜炎以外では、ペニシリン耐性の基準が異なっていますが、髄膜炎以外ではほぼペニシリン耐性はいません。そのため、ペニシリン系薬が第一選択です。肺炎球菌の80%はマクロライド耐性で、耐性因子としてermB(リボソームのメチル化)やmefA(排出ポンプ)がよく知られています。
また、肺炎球菌ワクチンとして、PCV13とPPV23が知られています。PCV13が蛋白結合型ワクチン、PPV23が莢膜多糖ワクチンです。両者ともに、肺炎球菌の莢膜多糖を抗原として用いていますが、PCV13ではジフテリアのトキソイドを結合させて抗原性を増強しています。莢膜多糖単独ではT細胞を介さない(T細胞非依存性)免疫応答が起こるため、免疫記憶やブースター効果がありません。また、T細胞非依存性の免疫応答は小児では未熟であるため、小児の髄膜炎に対する予防接種としては使用できません。
腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC)を表現しています。すでに説明していますが、ベロ毒素を産生する(ベロを出す)というおやじギャグです。ベロ毒素(vero toxin, VT)は、VT1とVT2に分かれ、VT1は赤痢菌が産生するシガ毒素(ST)と同じものであることが知られています。血管内皮を傷害することで、血便の原因になるだけではなく、腎糸球体の血管内皮を傷害することで急性腎障害から尿毒症を起こします。また、血管内皮傷害を引き金にして、溶血や血小板減少が起こるため、一連の病態を溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome, HUS)と呼びます。
感染症法の3類感染症の一つとして、特定の職種における就業制限が定められています。なお、感染症の3類感染症は以下の5疾患で、いずれも消化管感染症です。
感染症 | 病原体 |
---|---|
コレラ | Vibrio cholerae |
細菌性赤痢 | Shigella dysenteriaeなど |
腸管出血性大腸菌感染症 | enterohemorrhagic Esherichia coli |
腸チフス | Salmonella Typhi |
パラチフス | Salmonella Paratyphi A |
本ゲームで取り上げた抗菌薬は、適正使用を考慮して選択しています。
100年近く前に開発された天然のペニシリンで、古典的ペニシリンと呼ばれています。ブドウ球菌では耐性化が進んでいますが、肺炎球菌や破傷風菌などの他のグラム陽性菌にはまだ現役として使用できます。グラム陰性菌には無効です。
第一世代セファロスポリン系薬の代表です。黄色ブドウ球菌が産生するペニシリナーゼでは分解されないため、MSSAに対する第一選択薬としてもっともよく用いられています。どちらかというとグラム陽性菌にスペクトルが傾いていますが、感受性があれば大腸菌にも使えます。
第三世代セファロスポリン系薬のうち、抗緑膿菌作用がある抗菌薬です。緑膿菌にまでスペクトルが広がった代わりに、グラム陽性菌に対する抗菌力は第一世代セファロスポリン系薬より劣っています。したがって、肺炎球菌には無効です。なお、同じ第三世代でも、抗緑膿菌作用のないセフトリアキソン(CTRX)は肺炎球菌にも有効です。
第三世代セファロスポリン系薬の多用が、MRSAの拡大につながった可能性が指摘されており、今回のゲームでも、第三世代セファロスポリン系薬を使いすぎるとMRSAが出現するという設定にしています。
抗MRSA薬の代表格で、最もよく使用されます。MSSAにも効きますが、MSSAに対する抗菌力はセファゾリンに劣ります。また、腎毒性などの副作用がありますので、MSSAであることが明らかであればセファゾリンが推奨されます。感受性が分かるまではバンコマイシンとセファゾリンを併用することもあります。
ご自身はすでにご存じの場合でも、適正使用を普及しようという方にも、教育用にご利用いただければと思います。くどいようですが、無料です。ただ、よろしければ、ご利用状況をSNSで配信したり、情報を共有したりできれば幸いです。
2024年8月4日(日)に、抗菌薬適正使用促進のための研修会、Fil-GAP(Facilitative Gathering for Appropriate Antimicrobial Practice)を開催いたします。抗菌薬適正使用に関する知識格差を埋めるという思いを込めてFil-GAPと名付けました。参加募集は4月以降の開始を予定しております。ホームページはすでに開設していますので、詳細はそちらをご覧ください。LINE公式アカウントもありますので、あわせてご確認、ご登録ください。参加登録のお知らせなどをLINE公式アカウントからも配信予定です。