医療従事者向けお役立ち情報

コラム

2024.7.2

染方史郎のGame de 細菌楽③~Otitis Media

クリエーター名:

染方史郎(そめかたしろう)

本名:

金子幸弘(かねこゆきひろ)

1997年長崎大学医学部卒。国立感染症研究所などを経て、2014年から現職。薬が効かない「薬剤耐性菌」の研究をしています。また、染方史郎の名前で、オリジナルキャラクター「バイキンズ®」のイラストを描いています。過去に苦い経験のある細菌学、特に薬剤耐性菌をわかりやすく伝えています。そのような活動を評価いただき、2019年に第3回薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰文部科学大臣賞をいただきました。バイキンズ®カードやオリジナルLINEスタンプも絶賛発売中です。
大阪公立大学大学院医学研究科細菌学・教授
兼務 大阪公立大学大学院医学研究科感染症科学研究センター
兼務 大阪公立大学大阪国際感染症研究センター

◆著作・連載
「染方史郎の楽しく覚えず好きになる 感じる細菌学x抗菌薬」(じほう, 2020)
インフェクションコントロール「バイキンズワールドへようこそ! LINE de微生物」(メディカ出版, 2018)
感染対策ニュース「染方史郎の細菌楽教室」シーズン1~3(丸石製薬, 2021~2023)
など

【詳細解説あり】薬剤耐性菌についてゲームで学ぼう!
今回のコラムも染方史郎こと大阪公立大学大学院医学研究科細菌学・金子幸弘教授に耐性菌について楽しく学べるオリジナルゲームのご紹介と解説をしていただきました。教育・研修にもご利用いただける内容となっておりますのでぜひご活用ください。

1.はじめに

第三弾、中耳炎ゲームOtitis Mediaのご紹介です。まえだ耳鼻咽喉科クリニック 前田 稔彦先生、前田 雅子先生に監修していただいて作成したゲームです。重症度の分類は、ガイドラインを参考にしていますので、現実に近い設定にしています。

いつものように、操作方法から説明します。アクセスのたびに症例が変更になりますので、複数の展開が待っています。

タイトル画面の右側にある「開始する」をクリック(タブレットや携帯端末ではタップ)してください。なお、タイトル画面をスクロールすると、ゲームの説明の下に、症例の概要が表示されています。症例を変更したい場合には、「症例変更」をクリックしてください。また、さらにスクロールすると、抗菌薬の使用回数、お願い、重症度に用いる症状・所見とスコアが掲載してあります。

「開始する」をクリックすると、症例の概要・重症度とともに、患児の様子と鼓膜所見が表示されます。

「耳漏の培養を提出し、治療を開始する」か、もしくは、「耳漏の培養とグラム染色をする」かを選択します。今回は、グラム染色をしてみましょう。

上部に、「重症度と耳漏のグラム染色結果を参考に、治療薬を選択してください。また、3日後の培養結果によっては治療を再検討してください。」とアラートが表示されますので、アラートの「OK」をクリックしてください。

症例の下のところに、グラム染色所見が表示されます。今回の症例では、「グラム陰性桿菌が見えます。どのように治療しますか。」と表示されています。原因菌を推定して、抗菌薬を選択します。
今回は、高用量のセフジトレン-ピボキシル(2x CDTR-PI)を選択しておきます。すると、「高用量のセフジトレン-ピボキシル(CDTR-PI)を選択しました。」とアラートが表示されますので、「OK」をクリックしてください。さらに、「第三世代セファロスポリン系薬です。必要性を考慮して使用してください。」というアラートが表示されますので、もう一度「OK」をクリックしてください。

すると、表示が変わり、初回の記録とともに、治療経過が示されます。3日後という設定にしており、培養の結果も判明しています。今回は、lowBLNARという結果でした。「lowBLNARの場合には、高用量のAMPCも有効です。」とあるため、推奨に従って抗菌薬を「2x APMC」に変更してみます。すると、「高用量のアモキシシリン(AMPC)を選択しました。」とアラートが表示されますので、「OK」をクリックしてください。

再度、表示が変わり、さらに3日後という設定に変更となります。今回は重症であったため、治療期間が少し長くなっていますが、改善しているようなので、「2x APMC」を継続します。再度、「高用量のアモキシシリン(AMPC)を選択しました。」とアラートが表示されますので、「OK」をクリックしてください。
表示が変わり、さらに3日後、ついに完治しました。

2.解説

いかがでしたか。今回は、開始した段階で原因菌が決まっています。ただし、原因菌が判明するのは、2回目の治療時という設定になっています。グラム染色と培養をするという設定になっていますが、実際には一般的な病院やクリニックにおいては培養はほとんど実施されていないのが現状のようですので、ゲームの設定と現実とはやや乖離があります。ただ、原因菌を想定した治療薬の選択を期待してゲームを作成しました。
原因菌としては、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスの3菌種です。また、インフルエンザ菌の場合には、β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン感受性(BLNAS)、とβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)という耐性を想定し、かつ、BLNARの場合には、lowBLNARというやや耐性度の弱い耐性菌も用意しています。なお、軽症の場合には、ウイルス性も考慮して、菌が分離されない場合もあります。

抗菌薬の選択肢としては、アモキシシリン(AMPC)、クラブラン酸/アモキシシリン(CVA/AMPC)、クラリスロマイシン(CAM)、セフジトレンピボキシル(CDTR-PI)、テビペネムピボキシル(TBPM-PI)、トスフロキサシン(TFLX)があります。また、AMPCとCDTR-PIは高用量として、2倍量を使うという選択肢(2xAMPC、2xCDTR-PI)を用意しています。商品名の方がわかりやすいというご意見もあり、商品名に変更することができるようにもしています。

3. 学びを深める

さらなる成長のため、「学びを深める」というページもあります。その中にも一部掲載していますが、本稿でも少しふれておきたいと思います。

細菌と抗菌薬の解説

原因菌と有効な抗菌薬を一覧表にまとめておきます。

肺炎球菌 インフルエンザ菌 モラクセラ・
カタラーリス
AWaRe
分類
BLNAS lowBLNAR BLNAR
AMPC × × × Access
2xAMPC × ×
CVA/AMPC × × Access
CAM × × × × Watch
CDTR-PI Watch
2x CDTR-PI
TBPM-PI Watch
TFLX Watch

AMPC: アモキシシリン、CVA/AMPC: クラブラン酸/アモキシシリン
CAM: クラリスロマイシン、CDTR-PI: セフジトレンピボキシル
TBPM-PI: テビペネムピボキシル、TFLX: トスフロキサシン

AWaRe分類

本題に入る前に、AWaRe分類を紹介しておきます。
 抗菌薬の適切な使用を促進し、抗菌薬耐性の拡散を抑制するために世界保健機関(WHO)が導入した分類システムです。「Access」「Watch」「Reserve」の頭文字から取られています。WHOは抗菌薬使用全体のうちAccessの割合を60%以上にすることを目標として掲げています。
 Accessには第一選択及び第二選択として使用される一般的な抗菌薬が含まれます。これらの薬は一般に安価で入手可能であり、多くの感染症の治療に使用されます。例としては、ペニシリンやアンピシリンなどがあります。Watchには、医療において重要であり、その使用によって耐性菌が選択されるリスクが比較的高いため、第一選択及び第二選択としての制限を制限すべき抗菌薬が含まれます。例としては、フルオロキノロンやセフトリアキソンなどがあります。Reserveには、特に耐性菌に対処するために残された最後の手段としての抗菌薬が含まれます。例としては、コリスチンなどがあります。AMR臨床リファレンスセンターが作成した一覧表が公開されています(https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/030/AWaRe_syurui_2023_ver1.pdf)。
 令和6年度診療報酬改定で、抗菌薬適正使用加算が新設され、Access抗菌薬の使用を後押しする形となっています。本ゲームでも、できる限り、Accessが多くなるように意識してみてください。

細菌の解説

今回登場するキャラクターは、バイキンガム宮殿のロイヤルファミリー、ハイエンキューキン王、インフルエンザキンXV世女王、モラクセラ・カタラーリス王子です。グラム染色だけで、これらの3つの菌種は区別することができます。今回のゲームでは、グラム陽性双球菌なら肺炎球菌、グラム陰性桿菌ならインフルエンザ菌、グラム陰性双球菌ならモラクセラ・カタラーリスが分離される設定にしています。

肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae

グラム陽性双球菌です。気道感染症の場合には、ペニシリン耐性の基準を満たすことがほとんどないため、ペニシリン系薬が第一選択となります。今回のゲームでも、AMPCが有効です。一方で、マクロライド系薬には8割程度が耐性を示しますので、CAMは無効です。

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae

グラム陰性小桿菌です。ペニシリン系薬に対する感受性によって、大きく4つに分けられます。

βラクタマーゼ非産生 βラクタマーゼ産生
PBP(ftsI)変異なし BLNAS BLPAR
PBP(ftsI)変異あり BLNAR BLPACR
  • BLNAS:β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン感受性(Beta-Lactamase Non-producing Ampicillin Susceptible):感受性菌ですので、通常用量のAMPCで十分です。
  • BLPAR:β-ラクタマーゼ産生アンピシリン耐性(Beta-Lactamase Producing Ampicillin Resistant):β-ラクタマーゼによる耐性で、10~30%程度でβ-ラクタマーゼ(クラスAのペニシリナーゼであるTEM-1型とROB-1型)を産生することが知られています。CVA/AMPCが有効ですが、今回のゲームでは登場しません。
  • BLNAR:β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(Beta-Lactamase Non-producing Ampicillin Resistant):細胞壁合成酵素の一つであるPBP3をコードするftsI遺伝子の変異によるものです。β-ラクタマーゼ阻害薬配合のCVA/AMPCが効きませんが、セファロスポリン系薬やカルバペネム系薬は有効です。キノロン系薬も有効です。したがって、本ゲームではCDTR-PIとTBPM-PI、TFLXが有効です。ただし、耐性レベルの低いlow BLNARの場合には、高用量のAMPC(2xAMPC)も有効です。なお、耐性レベルは、変異の数に依存し、lowBLNARは1か所、真のBLNARは2か所に変異を有します。
  • BLPACR:β-ラクタマーゼ産生アモキシシリン/クラブラン酸耐性(Beta-Lactamase Producing Amoxicillin/Clavulanate Resistant):BLPARとBLNARの双方の耐性因子を持っています。治療薬の選択は、BLNARと同様ですが、今回のゲームでは登場しません。

モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis

グラム陰性双球菌です。常在菌で、健康な人からも分離されることがありますので、分離のみで原因菌とは言い切れません。喀痰などの膿性の分泌物中では、しばしば貪食像が明確に見られます。軽症が多く、自然軽快することもありますので、無治療での経過観察も選択肢の一つとなります。治療が必要な場合には、ほぼ100%ペニシリナーゼを産生するということを考慮する必要があり、ペニシリン系薬を選択する場合には、β-ラクタマーゼ阻害薬配合のCVA/AMPCを使用する必要があります。セファロスポリン系薬、カルバペネム系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬も有効ですが、適正使用の観点からは、CVA/AMPCが第一選択となります。

抗菌薬の解説

本ゲームで取り上げた抗菌薬は、適正使用を考慮して選択しています。

アモキシシリン(AMPC):Access

半合成のペニシリン系薬(アミノペニシリン系薬)です。古典的ペニシリンであるペニシリンGに比べ、グラム陰性菌に対する抗菌活性が改善されています。本ゲームの中では最も狭域で、有効であれば最も推奨される抗菌薬です。

クラブラン酸/アモキシシリン(CVA/AMPC):Access

クラブラン酸はβ-ラクタマーゼ阻害薬です。今回の原因菌の中では、β-ラクタマーゼを産生するBLPARとモラクセラ・カタラーリスが最も適しています。AMPCに次いで狭域で、こちらも有効であれば推奨される抗菌薬です。

クラリスロマイシン(CAM):Watch

マクロライド系薬です。アクションプランで使用量減が定められています。Watchにも含まれますので、適応を絞って選択する必要があります。今回のゲームの設定の範囲では、いずれの原因菌であっても第一選択とはなりません。

セフジトレンピボキシル(CDTR-PI):Watch

経口第三世代セファロスポリン系薬です。こちらもアクションプランで使用量減が定められています。BLNARやBLPACRにも有効で、インフルエンザ菌を想定する場合には選択肢となります。ただ、バイオアベイラビリティが低いため、高用量(2xCDTR-PI)が推奨されます。ややスペクトルが広いため、AMPCやCVA/AMPCが無効の場合に選択すべき抗菌薬です。

テビペネムピボキシル(TBPM-PI):Watch

経口カルバペネム系薬です。今回挙げた全ての原因菌に有効ですが、広域抗菌薬のため適応を絞って使用すべき抗菌薬です。今回の設定では、必須の抗菌薬ではありませんが、使用に注意したいという意味で選択肢に入れています。

トスフロキサシン(TFLX):Watch

フルオロキノロン系薬で、TBPM-PIと同様、今回挙げた全ての原因菌に有効ですが、こちらも広域抗菌薬のため適応を絞って使用すべき抗菌薬です。キノロン系薬は原則として小児に使用できませんが、唯一小児にも使用可能なキノロン系薬です。

情報共有・拡散大歓迎

ご自身はすでにご存じの場合でも、適正使用を普及しようという方にも、教育用にご利用いただければと思います。くどいようですが、無料です。ただ、よろしければ、ご利用状況をSNSで配信したり、情報を共有したりできれば幸いです。

お知らせ

Fil-GAP 抗菌薬適正使用研修会

2024年8月4日(日)に、抗菌薬適正使用促進のための研修会、Fil-GAP(Facilitative Gathering for Appropriate Antimicrobial Practice)を開催いたします。抗菌薬適正使用に関する知識格差を埋めるという思いを込めてFil-GAPと名付けました。参加募集は4月以降の開始を予定しております。ホームページはすでに開設していますので、詳細はそちらをご覧ください。LINE公式アカウントもありますので、あわせてご確認、ご登録ください。参加登録のお知らせなどをLINE公式アカウントからも配信予定です。

  

ICT Mateに関する製品紹介資料のご請求は
こちらからお申し込みいただけます。

ICT Mateに関する説明、費用、
デモのご依頼については、
こちらからお問い合わせください。